本研究では,原発性線毛運動不全症が疑いや鑑別にあがる患者さんを対象に,診断のために鼻や気管・気管支の粘膜から採取した線毛細胞の電子顕微鏡下の超微小構造異常を証明することや,高速ビデオカメラをつけた光学顕微鏡下に線毛運動を解析することに加えて,鼻粘膜や気管・気管支粘膜の線毛細胞の培養を追加したうえで再評価することの有用性を評価します。
In this study, we evaluated the usefullness of re-cultivation of ultrastructural abnormalities under electon microscope and mortailty under high-speed video camera with optical microscope using cultred ciliated cells of the nasal mucosa, trachea, bronchial mucosa for the diagnosis of patients with primary ciliary dyskinesia, in additon to the direct examination of ciliated cells collected from the mucosa of the nose, trachea, and bronchus.
原発性線毛運動不全症は,先天的な線毛の形態や機能異常により粘液線毛輸送機能が障害され,慢性咳嗽,慢性副鼻腔炎,滲出性中耳炎,気管支拡張症,不妊といった臨床症状を成長段階毎に呈します。本邦ではこの疾患の認知率は低く,鑑別に挙がることすら容易ではなく,また,適切に診断できる施設も少ないことなどから,多くの患者さんが未診断の状態であり,適切かつ十分な疾患への社会的,医学的な支援や管理体制,理解もない状況であると考えられます。本症を診断をする場合は,顕微鏡下における鼻や気管・気管支の粘膜から採取した線毛細胞を光学顕微鏡で運動を観察したり,電子顕微鏡検査下に観察して超微小構造的異常を証明することで診断します。我々は,この疾患を適切に診断することができる本邦で数少ない施設の一つとして,体制を整えてきています。また,1回の評価では炎症などの影響で正確な評価は難しい場合もあり,複数回評価することが推奨されることは,ほとんど知られていません。欧米では,ヨーロッパ呼吸器学会(European Respiratory Society)の診断ガイドラインのように,採取した線毛を直接評価するだけでなく,繰り返し採取または培養後に高速ビデオカメラをつけた光学顕微鏡下に線毛運動を解析し,電子顕微鏡検査にての線毛の超微小構造的異常の評価を行い,炎症などに伴う二次性の運動低下及び超微小構造異常を除外するなど,より適切な診断を行うことが推奨しています。培養を行うことは,患者さんから複数回の時期を分けた線毛採取を行うことを回避できるなど,侵襲の低下につながる可能性もあります。この線毛細胞の培養も非常に特殊であり,容易ではありませんが,我々は取り組んでいます。本手法が確立できれば,より、正確に,確実に診断ができることとなり,患者さんの診断に貢献できると考えています。また,線毛運動を直接改善する治療薬は現在はありませんが,将来的には培養した細胞を用いて,様々な薬剤の効果をみるなど新たな治療薬の開発などにつながる可能性があると考えています。
本研究を通じて,患者さんの診断に直接お役にたてる可能性があります。また,よりよい診断手法の発展への貢献や普及,さらに将来的には治療薬の開発にもつながる可能性のある研究と考えています。