近年では傷が小さくて済む内視鏡手術の発展で,創自体は徐々に小さくなってきていますが,特に開胸手術は術後の慢性痛(5-65%)が残りやすいことが知られています(Am J Surg, 2011; 201; 122-131)。これには主に肋間神経の損傷が原因と考えられ,一旦慢性化すると患者さんのQOL(生活の質)を落としてしまいます。アメリカでは慢性痛に処方される多くの薬剤の乱用が社会問題化しました。この客観的評価が難しい,開胸術後疼痛をいかに評価し,治療を行い,また予防できないかをテーマに研究を続けています。
In recent years, with the development of endoscopic surgery with smaller wounds, the wound itself has gradually become smaller, but it is known that postoperative chronic pain (5-65%) is more likely to persist, especially in open chest surgery. The main cause of this is thought to be intercostal nerve damage, which, once it becomes chronic, can reduce the patient's quality of life. This objective evaluation is difficult, and our research continues with the theme of how to evaluate, treat, and prevent postoperative pain.
近年の高齢化社会の進行や非喫煙者の肺癌の増加で,今後も益々開胸手術は増加すると思われます。私はこれまでに術後(特に開胸術)疼痛の研究を行って来ました。術後疼痛の最大原因と考えられる肋間神経の損傷程度をNeurometerという計測機器を利用し,Current Perception Threshold(電流知覚閾値)を測定し,内視鏡手術の有用性を客観的に評価しました。また新規鎮痛補助剤の有効性を検証する試験,慢性痛における患者さんの心理的要因の影響も調べて報告してきました。
今後は新たな鎮痛補助薬の有効性を検証する第三層試験を行う予定です、また他分野の研究者と連携して,客観的な評価方法や疼痛のバイオマーカーを検索するなど,多方面から術後疼痛の制御に取り組んでいきたいと考えています。
術後疼痛の軽減と克服は患者さんにとって肉体的,精神的,経済的,社会的に非常に重要な課題でありますが,そもそも「痛み」は主観的で客観的評価に乏しいため,個々人に応じた(テーラーメイド)治療の提供や評価が難しい状況です。AIを利用した表情や音声での新しい疼痛評価方法,バイオマーカーを探索していきたいと思っています。