乳房部分切除術は術前画像診断と術中の触診所見を基に切除範囲を決定する事が多く,断端陽性による再切除率は17-38%とされています。特にHER2陽性乳癌の断端陽性は高率で,術中に病変を蛍光色素で可視化するイメージガイド下手術(IGS)の開発が望まれています。HER2陽性乳癌細胞を検出するためのトラスツズマブ(Tmab)を用いたトレーサーに関する研究成果が報告されていますが,術前治療のTmabがHER2受容体を占拠するマスキング効果がトレーサーとしてのTmabの結合を阻害する可能性があるものの,未だ証明されていません。そのため我々は,Tmabによる術前治療がHER2受容体に及ぼす影響を明らかにし,IGSに適切なトレーサーを開発します。
In partial mastectomy, the extent of resection is often determined based on preoperative imaging and intraoperative palpation, and the re-resection rate for positive margins is estimated to be 17-38%. Especially, HER2-positive breast cancer has a high rate of positive margins, and the development of image-guided surgery (IGS) to visualize the lesions with fluorescent dyes intraoperatively is desired.Some studies on tracers using trastuzumab (Tmab) to detect HER2-positive breast cancer cells has been reported, but it has not yet been demonstrated that the masking effect of preoperative Tmab occupying the HER2 receptor may inhibit the binding of Tmab as a tracer. Therefore, we will determine the effect of preoperative treatment with Tmab on HER2 receptors and develop an appropriate tracer for IGS.
HER2陽性乳癌細胞株(HCC1954)とHER2陰性乳癌細胞株(MCF7)に対して術前治療を想定した非標識Tmabを投与し,Fluorescein(FITC)で蛍光標識したTmab,ペルツズマブ(Pmab),Affibodyを用いたフローサートメトリーを行い,術前治療のTmabによる間接的なマスキング効果と各トレーサーの親和性を評価しました。術前治療を想定したTmabを投与していないwithout antibody群では,トレーサーである蛍光標識Tmab・Pmabが共にHER2陽性乳癌細胞に結合しました。前治療Tmabを1時間・24時間投与した群では蛍光標識TmabのHER2陽性乳癌細胞との結合を認めず,蛍光標識Pmabでは結合を認めました。一方,HER2陰性乳癌細胞株であるMCF7では,全ての群でトレーサーとの結合を認めませんでした。今後,蛍光顕微鏡でも同様に評価を行い,蛍光色素の出現パターンと頻度を評価します。また,HER2陽性乳癌細胞株と蛍光標識したTmab,Pmab,Affibodyを用いたin vitro,マウスを用いたin vivo実験を予定しています。
本研究によりHER2陽性乳癌のイメージガイド化手術の実現が期待できます。また,核医学検査分野に応用し,ラジオアイソトープを結合させたトレーサーでより正確な術前化学療法における完全奏功(癌が完全に消える事)ができることにより,手術を行わずに治癒できる乳癌を選別できる可能性があります。
◎企業へのメッセージ
これからの外科領域では,イメージガイド下手術によるより精確な切除と非手術症例の選別は非常に重要なテーマとなります。