魚介類の種苗生産では,水槽内の流場の調節の良し悪しが生き物の生残に大きく関わってきます。
水槽内の流れの調節は名人芸のようなところがあって,飼育のセンスを持ち合わせた飼育技術者が経験値によって行っていました。私たちの研究グループは,水槽内の流れを可視化して仔魚飼育成績と照らし合わせることで,最適な流場を魚種および水槽毎に求めていく研究をしています。水槽の大きさや通気量を数値化して流れを制御することで,飼育成績の底上げを図るのが目標です。
Flow field in a larviculture tank is assumed to have great impact on marine fish larvae and to provide a basis for tank design for larviculture. My research team is trying to devep optimizing flow field in larvuculture tanks integrating larviculture experiments and hydrodynamics, and propose the management of flow field in larviculture.
同じ水量であっても,水槽の形状によって流れは異なります。
いわゆる60cm水槽(長方形)と,これと同じ水量(50L)の円形水槽に,それぞれエアストーンを水槽底中央に1個置いて100mL/分の通気量でクロマグロ仔魚の初期飼育を行いました。すると,8日齢の生残率は長方形の水槽は0.8%であったのに対して,円筒形の水槽は53%と大きな差が生じました。
立体的な流れは,各々の水槽でエアストーンから出る気泡によって循環流が形成されている点は共通していましたが,長方形の水槽では4隅やエアストーンの近傍に複雑な渦が見られました。特に,水槽底の流れに着目すると,水槽底の平均的な流れの速さは長方形の水槽の方が速かったのですが,水槽の縁の部分とエアストーンの近傍に複雑な渦構造ができていることが分かりました。この渦にクロマグロの仔魚が取り込まれることで水柱へ浮上しにくくなり,結果としていわゆる「沈降死」現象が起こりやすくなり,生残率が低くなると考えられました。
現在は,魚種を変えた飼育実験や,複数あるいは異なる形状のエアストーンを使ったときにどのような流れになるか,を調べているところです。
経験則で行われてきた魚介類の種苗生産に科学の目を導入することで,よりよい飼育技法の開発を目指したいと考えています。