我々は,世界遺産のデジタル化に関する研究を行っています。世界遺産のデジタル化とは,保存が難しかったり,遠隔地にあって訪問が難しいような世界遺産をデジタル技術を用いてバーチャルに保存,復元し,誰でもが体験できるようにする技術です。この技術によって,歴史を未来に残すとともに,歴史そのものを追体験することも出来るようになります。これまでにエジプトの三大ピラミッドのほか,長崎の世界遺産についても取り組んでいます。
We have been studying “digital modeling of the world heritages.” The digital modeling is to virtualize heritages that are difficult to conserve, to restore, or to visit by using computer technology. This study allows us not only to preserve cultures but also to experience them. So far we have made digital models of the Great Pyramids of Egypt as well as the world heritages of Nagasaki.
本研究は三つの点で興味深いものです。第1に,これが技術的な挑戦であることです。例えばエジプトの大ピラミッドは高さが134mもある巨大建築で,地上からすべての面を見ることは出来ません。我々は特殊なセンサやドローンを使い,大ピラミッドのデジタルモデルの取得に成功しました。第2に,これが歴史学,考古学に貢献することです。コンピュータグラフィックスで描かれた世界遺産の映像はたくさんありますが,歴史学,考古学の研究に耐えるような,数ミリメートルの誤差しかない現実のコピーはほとんどありません。我々のデジタルモデルは,歴史学者,考古学者が現地に赴かなくても研究を実施できるレベルのものです。第3に,これが文化活動であることです。我々の研究は学術的な応用にとどまりません。遺産は全人類共有の財産であり,未来への道標となるものです。我々の技術は,誰もがその共有財産にアクセスできるようにするものです。その結果,人類はより豊かな未来を描けるのです。
長崎県は我が国でも屈指の文化遺産を誇る県であり,特に国連世界遺産への推薦が決定した「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」は世界的に見ても稀有な文化遺産です。特筆すべきは12の構成資産のうち10が「集落」であることであり,そのうち9までが長崎県内に点在することです。このような遺産を完全にデジタル化することはまだ困難ではありますが,一歩ずつともに研究できたらと願います。