加齢は私たちの身体機能に多種多様な影響を及ぼします。超高齢化社会を迎える現状の中，生活の質を向上し充実した“毎日”を過ごすには「昼間は溌剌と活動し，夜間はぐっすりと眠る」という生理機能の“タイミング制御”が最優先事項として挙がります。生理機能のタイミング（サーカディアンリズム）は脳内に存在する体内時計によって制御されており，加齢に伴い機能変容をきたします。サーカディアンリズムの基盤となる体内時計神経回路の加齢変容を理解することは，充実した豊かな老後を実現するための社会的ニーズとなるのです。
Aging influences a wide variety of physiological functions in individuals, one of which is the circadian timing systems. Not only does aging cause changes in sleep patterns but it also causes declines in diurnal/circadian dynamics of the autonomic nervous and endocrine systems in humans. As a greater proportion of people are living longer, it is important to develop timing control that leads to actively on daytime and getting sufficient amounts of rest in order to improve the quality of life. An understanding of the mechanism underlying age-related dysfunctions in the circadian rhythm is necessary for the extension of a healthy life span in our society.
サーカディアンリズムの基盤となる脳内の体内時計・視交叉上核の加齢を理解することは，充実した豊かな老後を実現するための社会的ニーズであるといえるでしょう(Nakamura et al. 2016 J Physiol Sci )。加齢とともに発症頻度が漸増する，いわゆる「生活習慣病」を克服する最善策は予防であり，大部分の歯科疾患をはじめとする慢性疾患予防には「規則正しい生活」が推奨されます。近年，サーカディアンリズムを制御する「時計遺伝子」の変異と，生活習慣病との関連が報告されています。私たちは，体内時計を操作することによって，時計遺伝子KOマウスにみられる不妊症が劇的に改善することを明らかにしました(Takasu et al. 2015 Cell Rep )。この結果は，社会的な時計（時刻）と体内時計とのズレが，性周期不整や不妊症状の早期加齢様変性のリスクファクターとなり得ることを示しています。生活習慣病は，単一の病因では発症機序が説明できず，高食塩や肥満，運動不足，ストレスなどの環境要因が複合的に作用した結果生じます。体内時計が生理機能の時間配分をどのように制御しているかを明らかにすることは，加齢性機能低下予防・治療ターゲットとして重要となってきます(Takasu et al. 2011 Jpn Dent Sci Rev)。
本研究により，未病の状態を含む生活習慣病の予防や健康寿命の延伸につながります。また，自分自身の体内時計を把握する技術開発への応用が期待できます．