研究テーマ | Research theme

ラット再生肺を利用したex vivoヒト肺癌モデル

Ex vivo human lung cancer model using bioengineered rat lung

研究者 | Researcher

溝口 聡

Mizoguchi Satoshi
生命医科学域
医歯薬学総合研究科腫瘍外科学
医 員

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土谷 智史

Tsuchiya Tomoshi
生命医科学域
医歯薬学総合研究科腫瘍外科
准教授

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永安 武

NagayasuTakeshi
長崎大学 理事・副学長
生命医科学域
医歯薬学総合研究科腫瘍外科学
教 授

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研究概要 | Research summary

ディッシュやフラスコなどの2次元培養皿上の癌細胞と,実際に生体内に存在して周囲の様々な種類の細胞と影響し合っている3次元の生細胞では,その性質が異なることが知られています。我々はこれまでに脱細胞化したラット肺を再細胞化して作製した再生肺に,ヒト肺癌細胞を播種・生着させた小型ヒト肺癌モデルの作製を行っています。このモデルでは薬剤や成長因子,栄養,環境因子など様々な外的因子との相互作用をリアルタイムで観察することが可能です。

Cancer cells on 2D solid plates or flasks are not identical to those cells on in vivo 3D structure, which are interacting with various types of cells. We established novel 3D human lung cancer models using bioengineered rat lungs based on decellularization / recellularization technique. This ex vivo model will be used for the observation of real-time responses against various external factors such as drugs, growth factors, nutrient substances or environmental factors.


特色・研究成果・今後の展望

我々はこれまでにYale大学から導入したバイオリアクターを用いて,ラット肺をSDS法で脱細胞化した組織骨格(Scaffold)に,ラットの肺組織懸濁液,ラット肺微小血管内皮細胞およびラット脂肪幹細胞を用いて再細胞化を行い,小型再生肺を作製しました。この再生肺上に4種類のヒト肺癌細胞(A549、PC-9、NCI-H520、PC-6)の懸濁液を局所注入することで癌細胞を生着させ,正常な肺胞上皮細胞や血管内皮細胞と癌細胞が共存したよりin vivoに近い状態の肺癌モデルの作製に成功しました。再生肺に生着した肺癌細胞では,2Dでは観察できないような結節形成や腺管構造形成などの特徴的な形態学的構造を観察することができました。また,上皮成長因子受容体(EGFR)に変異を持つPC-9を播種させた肺癌モデルにおいて,gefitinibに対する薬剤反応試験を行い,正常細胞を残しながら肺癌細胞の縮小・脱落が認められました。本モデルは改良の途上でありますが,より正確な薬剤スクリーニングや癌の生理学的研究に応用可能と思われます。また,患者由来の細胞を使用すれば,どの薬剤の有効性など個別化医療に発展させる可能性を有しています。さらに,癌研究にとどまらず,肺気腫モデルや肺線維化モデルなど他疾患の疾患研究モデルにもなりうる可能性を秘めています。


社会実装への展望

本モデルは,これまでの2次元で行われてきた癌研究から3次元へステップアップして,癌細胞と正常細胞が共存するより生体内に近いモデルとなっています。正確な薬剤スクリーニングや癌の生理学的研究,さらには患者由来の細胞を使用して個別化医療に発展させる可能性を有しています。

◎企業へのメッセージ
本モデルは癌研究に焦点を当てていますが,これにとどまらず,肺気腫モデルや肺線維化モデルなど他疾患の疾患研究モデルにもなりうる可能性を秘めています。(特願2019-014778, PCT/JP2020/003159)