トロンボスポンジン-1および-2は血管新生抑制因子として知られていますが,その癌組織における病理学的役割については一定の見解は得られていません。一方,トロンボスポンジンの生物学的活性は,そこから生じるフラグメントタンパクに依存することが知られています。そこで,我々の研究室は,トロンボスポンジン由来の4N1K-peptide(KRFYVVMWKK)の病理学的役割に注目し,血管内皮細胞の増殖や遊走,管腔形成を抑制すること,ある種の泌尿器癌において血管新生やアポトーシスと密接に関連することを報告しました。その結果,4N1K-peptideが癌患者の予後予測に有用であることや,今後の有益な癌患者の治療標的となる可能性を報告しました。
Thrombospondin (TSP)-1 and -2 were recognized as anti-angiogenic factor; however, there is no general agreement about their pathological roles in cancer tissues. On the other hand, biological activities of TSP-1 and 2 were depended on their fragment peptides. Our research group paid special attention to pathological role of 4N1K-peptide(KRFYVVMWKK). As results, we found that 4N1K-peptide suppressed proliferation, migration, and tube-formation of endothelial cells, and it's expression was closely associated with angiogensis and apoptosis in a variety of urological cancers. Finally, we speculate that 4N1K-peptide is the useful predictor and potential therapeutic target in cancer patients.
私達の研究室では,独自に4N1K-peptideに対する抗体を作成し,その臨床検体における有用性に関して特許(抗4N1Kペプチド抗体を用いた癌進行度の検出・測定方法:特開2004−77268)を取得しています。そして,血管内皮細胞および泌尿器癌組織のおいて,以下に示す業績を有しています。
また,すでに国際学会で報告し,英語論文として国際誌に投稿中ですが,4N1K-peptideがある種の癌の発生や進行を抑制することを動物モデルで確認しており,その分子生物学的機序について検討を進めています。このように,今後,癌組織における4N1K-peptideの発現により予後を予測する試みや,癌の進行を抑制し生命予後の延長につながる治療薬としての可能性についての前臨床的研究を進めていく予定です。
今後の展望でも触れましたが,本研究により,泌尿器癌に限らず様々な癌腫や悪性腫瘍において,予後予測因子や治療標的の探索研究において有益な情報が期待されます。特に,治療薬としての有用性については,4N1K-peptideの化学的不安定性を克服するために,薬学分野やdrug delivary systemとの共同研究により,新たな治療戦略の構築につながると期待されます。