悪性腫瘍に対する放射線治療や,X線透視下に行うIVRは患者への侵襲が少ない簡便な治療ですが,放射線照射の影響によって難治性の皮膚潰瘍や四肢のリンパ浮腫をきたすことがあります。間葉系幹細胞は各種サイトカインや成長因子を放出することにより,組織再生を促進し抗炎症作用や免疫抑制作用を有することが知られていますが,本研究では放射線により傷害された細胞・組織に対する間葉系幹細胞の影響を明らかにし,難治性の放射線組織障害に対する新たな治療戦略を確立することを目的としています。
Radiotherapy for malignant tumors and Interventional Radiology are minimally invesive treatment, but their treatments cause intractable cutaneous radiation injury and secondary lymphedema. Mesenchymal stem cells promote tissue repair by paracrine effects. The purpose of this study is to examine the effects of mesenchymal stem cells on chronic radiation syndrome.
間葉系幹細胞の中でも脂肪組織から採取できる脂肪組織由来幹細胞(Adipose-derived stem cell:ADSC)は,脂肪組織自体が体表に近い皮下に多量に存在することもあって採取が容易なため,形成外科や美容外科の領域で幹細胞を用いた再生医療のソースとして近年注目されています。これまでに我々はADSCが,放射線照射による難治性皮膚潰瘍に対して治癒を促進し血流や組織の質感を改善することを確認しました。またADSCとリンパ管内皮細胞の共培養実験により,ADSCがVEGF-CやbFGFなどのリンパ管新生因子を放出することで,放射線照射により障害を受けたリンパ管内皮細胞のリンパ管新性能を促進することを報告しました。また動物実験ではマウスやラットの放射線組織障害モデルを作成し,ADSCの局所への投与が放射線照射による皮膚潰瘍やリンパ浮腫を改善することを確認しました。
現在,我々はADSC以外の幹細胞治療として胎盤組織に由来する幹細胞にも注目し,難治性潰瘍に対する胎盤組織由来間葉系幹細胞の治療への応用についても研究を行っています。
本研究により放射線照射による障害を受けた組織の再生において間葉系幹細胞が果たす役割を解明することで,これまで治療が非常に難しいとされてきた放射線皮膚潰瘍や二次性リンパ浮腫の治療成績向上に貢献できる可能性があります。