外傷や腫瘍切除手術の際に生じる末梢神経の欠損に対して自身の末梢神経の自家神経移植が一般的に行われますが,神経採取部の疼痛やしびれ,知覚鈍麻を避けることはできません。現在,国内では自家神経移植に替わる治療方法として,生体内吸収材料で構成された人工神経がすでに臨床応用されています。しかし回復できる神経欠損の長さに限界があり,感覚神経に比べて運動神経の治療成績が十分でないという欠点があります。本研究は,既存の人工神経に生体材料や幹細胞などを組み合わせることで,人工神経の末梢神経再生能を促進させる新しい治療を開発することを目的としています。
Autologous nerve grafting performed for peripheral nerve injury of trauma or tumor resection causes pain, numbness and hypoesthesia at donor site. Nerve reconstruction using artificial nerve conduits is one of several clinical treatments for nerve injuries by inducing axonal regrowth to facilitate nerve regeneration, but its application is limit to short nerve gaps and non-critical sensory nerves. The purpose of this study is to develop a new treatment that promotes peripheral nerve regeneration by using combined treatment with artificial nerve conduits and regenerative medicine.
組織や臓器の再生には細胞,成長因子,足場の三要素が必要ですが,人工神経はこの中でも足場に特化した治療法です。残りの細胞および成長因子の要素を追加する方法として,すでに国内外でサイトカイン製剤や幹細胞などの再生医療と人工神経を組み合わせた併用療法の研究が行われています。人工神経は管腔構造であり,外筒や内腔に成長因子や幹細胞などを添加する方法が試みられていますが,我々は微細組織移植(マイクログラフト)と呼ばれる組織移植法に注目しています。マイクログラフトは自家組織を50μm程度の大きさに細断し移植する方法で,細断された組織内の前駆細胞や間葉系幹細胞の分化や成長因子の放出により組織再生を促進すると考えられ,頭蓋顎顔面領域の骨再建や四肢の難治性潰瘍においてすでに有用性が報告されています。我々のグループでは人工神経の内部に各種組織のマイクログラフトを充填し,より神経再生能を促進する組み合わせを研究しています。既存の製剤,技術を用いているため,効果が実証できればすぐに臨床応用できるという利点があります。
本研究により,人工神経の末梢神経再生能を促進させることができれば,より長い神経欠損や運動神経欠損への適用など,人工神経を用いた治療の適応を従来よりも拡大することができ,自家神経移植に伴う患者さんの負担を減らすことができます。