「細胞の大きさはどのように決まるのだろうか?」これが我々の研究テーマです。人間の身体は30兆を超える数の細胞から成り立っています。それらは身体の中での役割に応じていろいろな形や大きさになっています。個々の細胞の役割は遺伝情報に決定されると考えられますが,ひとりの人間を構成する細胞の遺伝情報は基本的にすべて同じはずです。にもかかわらず大きさが異なる・そしてそれが必要に応じてときどき変わることがあるのはなぜでしょうか?その答えを探すために遺伝子のスクリーニングを行い,たくさんの細胞サイズ調節遺伝子の候補を見出しました。これらの解析を通じて,冒頭の問いに答えていきたいと考えています。
“How do cells determine their size?” This is my objective. Our body is consisted from more than 30 trillion cells, which show various shapes and sizes depending on their roles. Genetic information may play central roles to determine the functional division for individual cells, but the information is fundamentally uniform among them. Nevertheless, cells do show different sizes and the size sometimes changes according to circumstances. To elucidate the mechanism of cell size regulation, we performed a genetic screening and identified lots of cell size-controlling genes. We are now investigating their physiological functions and involvement in diseases to answer the above question.
これまでに細胞の機能や形態に関わる研究はたくさん行われてきましたが,「サイズ制御」に着目した研究は,酵母などの単細胞生物では報告が見られますが,我々ヒトを含む動物細胞ではあまり例がありませんでした。そこでこの問題に切り込むために特殊な遺伝子スクリーニング法を考案し,その結果として見出したのが「Largen」と名付けた因子です。Largenはミトコンドリアを活性化してタンパク質合成を盛んにすることで細胞を大きくしていることが分かりました。このような活性は,培養細胞のみならずLargeを過剰発現させたマウスでも確認されました。したがって,Largenはミトコンドリアの活性調節を通じて生体における代謝の調節にも関与していると考えられます。このような観点から,代謝における異常が病態に深く影響を及ぼすことが明らかになってきた癌や糖尿病などの深刻な現代病に対して,Largenの研究は新たな治療戦略・疾患解析モデルの提供につながるのではないかと期待されます。また,他の細胞サイズ調節遺伝子についても細胞内の興味深い現象に関わることが明らかになりつつあり,今後の展開が待たれるところです。
本研究により癌,免疫不全,神経・代謝疾患などの現代病に対する新たな治療戦略の提供につながることが期待されます。