糖尿病(DM)性皮膚創傷治癒は遅延し,難治性皮膚潰瘍になることが知られており,新規治療法の開発は急務であると考えられます。創傷治癒過程は,炎症期・増殖期・成熟期で構成されています。以前我々は,創傷治癒遅延の要因として,炎症が長期化すること,またその本態としてのDM由来好中球が炎症制御に関与する機能異常を生じた可能性を明らかにしました。そこで本研究は,DM由来好中球におけるmicroRNAを中心とした遺伝子発現制御機構の解明によるDM性創傷治癒促進を目的としています。
Diabetes is known to delay wound healing and cause complications such as foot ulcers. Skin tissue repair consists of three phases: inflammation, proliferation/migration, and maturation/resolution. We have previously shown that neutrophil retention in diabetic cutaneous wounds is aberrant in mice and inflammation is prolonged, and that this pathogenesis may result from dysfunction of diabetes-derived neutrophils. The aim of this study is to clarify the molecular mechanism centered on microRNA that regulates inflammation in diabetes-derived neutrophils.
糖尿病(DM)マウスの好中球において,miR-129-2-3p発現が,非DMマウスと比較し有意に減少したことを認めました。また,DMマウスの創傷2日における創傷部miR-129-2-3p発現においても,非DMマウス創傷部と比較し,有意な減少を認めました。創傷治癒過程におけるmiR-129-2-3pの病態生理学的役割を検証するために,DMマウス背部に創傷を作製し,miR-129-2-3p mimicとコントロールとしてのmutantをそれぞれpluronic F-27 gelと混合し,創傷部に塗布,創傷閉鎖率を計測したところ,創傷閉鎖が創傷7日-21日で有意に促進したことを明らかにしました。今後microRNAを中心とした遺伝子発現制御機構の全容を解明し,創傷治癒促進効果のある新しい核酸医薬開発への展開を目指します。
慢性創傷の発症は糖尿病(DM)患者の15%に起こり,症例の80%以上で下肢の切断などQOLの低下をもたらします。したがって,DM性創傷に対する治療法開発の要求度は社会的に高まっています。本研究により,DM性創傷治癒研究分野だけでなく,炎症(好中球)が関与する他領域疾患の新規治療薬開発へ展開するための基礎医学研究から臨床医学への還元が期待されます。